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誤用が定着した慣用句10選|本来の意味と現在の使い方

慣用句 誤用 日本語 言葉の変化
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日本語には、本来の意味とは異なる使い方が広まり、すでに定着してしまった慣用句がいくつもあります。言葉は時代とともに変化するものですが、元の意味を知っておくことは教養として大切です。ここでは、誤用が定着した慣用句を10個取り上げ、本来の意味と現在の使われ方を解説します。

1. 「すべからく」

定着した誤用

「すべて」「みんな」という意味で「すべからく努力すべきだ」のように使われることが多い表現です。響きが「すべて」に似ていることが誤用の原因とされています。

本来の意味

「すべからく」は漢文の「須(すべからく)~べし」に由来する副詞で、「当然~すべきだ」「ぜひとも~すべきだ」という意味です。

誤用例正しい使い方
学生はすべからく勉強している学生はすべからく勉強すべきだ
参加者はすべからく満足した参加者は皆満足した

「すべからく」を使う場合、文末に「べし」「べきだ」が来るのが正しい用法です。

2. 「煮詰まる」

定着した誤用

「議論が煮詰まって先に進まない」のように、行き詰まること、膠着状態になることを意味する使い方が広まっています。

本来の意味

料理で煮汁が煮えて少なくなり、味が凝縮される状態から転じて、議論や検討が十分に行われて結論が出る段階に達することを意味します。つまり肯定的な意味の表現です。

現在では否定的な意味での使用が急速に広まっており、辞書によっては「行き詰まる」の意味も掲載されるようになっています。

3. 「姑息」

定着した誤用

「卑怯」「ずるい」という意味で「姑息な手段」と使われることが圧倒的に多くなっています。

本来の意味

「姑息」は「一時しのぎ」「その場限りの間に合わせ」を意味します。「姑」は「しばらく」、「息」は「休む」の意味で、根本的な解決をせずに一時的にしのぐことです。

文化庁の調査では、「卑怯」の意味で理解している人が70%を超えており、本来の意味の浸透は非常に低い状況です。

4. 「失笑する」

定着した誤用

「あきれて笑えない」「笑いもできないほどひどい」という意味で「失笑を買う」と否定的に使われがちです。

本来の意味

「失笑」は「思わず笑い出してしまうこと」「こらえきれずに吹き出すこと」を意味します。「笑いを失う」のではなく、「笑いを漏らしてしまう」という意味です。

誤った理解正しい意味
あきれて笑えない思わず吹き出してしまう
苦笑いもできないこらえきれず笑いが漏れる

5. 「檄を飛ばす」

定着した誤用

「激励する」「叱咤して奮い立たせる」という意味で「選手に檄を飛ばす」と使われることがほとんどです。

本来の意味

「檄」は古代中国で使われた木の札のことで、「檄を飛ばす」は自分の主張を広く人々に知らせて同意を求め、決起を促すことを意味します。単なる応援や叱咤ではなく、文書で訴えかけるというニュアンスがあります。

6. 「穿った見方」

定着した誤用

「ひねくれた見方」「疑い深い見方」という否定的な意味で使われることが多くなっています。

本来の意味

「穿つ(うがつ)」は「穴を掘る」が原義で、転じて「物事の本質を的確に言い当てる」という意味があります。したがって「穿った見方」は「本質をついた鋭い見方」という肯定的な表現です。

誤った理解正しい意味
疑い深い見方本質を突いた見方
ひねくれた解釈鋭い洞察

7. 「敷居が高い」

定着した誤用

「高級で入りにくい」「レベルが高くて手が出ない」という意味で広く使われています。

本来の意味

不義理や面目の立たないことがあり、その人の家を訪問しにくいという意味です。後ろめたさが原因で行きづらいという心理を表しています。

「あの店は敷居が高い」は本来は「その店に対して何か申し訳ないことがあるから行きにくい」という意味であり、単に高級だから入りにくいという意味ではありません。

8. 「なし崩し」

定着した誤用

「うやむやにする」「曖昧なまま進める」という意味で「なし崩し的に決まった」と使われがちです。

本来の意味

「なし崩し」は「済し崩し」と書き、借金を少しずつ返済することが原義です。転じて、物事を少しずつ段階的に進めていくことを意味します。

誤った理解正しい意味
うやむやにする少しずつ段階的に進める
曖昧にごまかす徐々に片づけていく

9. 「役不足」

定着した誤用

「自分の力量では役目を果たせない」「力が不足している」という謙遜の意味で使われることが多い表現です。

本来の意味

「役不足」は、与えられた役目が本人の力量に比べて軽すぎることを意味します。実力に対して役が不足している、つまり「もっと大きな役がふさわしい」という意味です。

力量が足りないことを言いたい場合は「力不足」を使うのが正しい表現です。この二つは正反対の意味を持つため、混同に注意が必要です。

10. 「やぶさかではない」

定着した誤用

「仕方なくやる」「消極的に同意する」「あまり気乗りしないが」というニュアンスで使う人が増えています。

本来の意味

「やぶさか」は「けちである」「物惜しみする」という意味の形容詞です。「やぶさかではない」はその否定形で、「喜んでする」「努力を惜しまない」という積極的な意味を持ちます。

誤った理解正しい意味
仕方なく応じる喜んで引き受ける
消極的な同意積極的に取り組む姿勢

言葉の変化とどう向き合うか

ここで紹介した慣用句の多くは、誤用のほうが多数派になっています。言葉は使う人々によって意味が変化していくものであり、誤用が定着すれば新たな正しい意味として認められることもあります。

しかし、本来の意味を知っている人からは誤用に聞こえることもあるため、特にフォーマルな場面やビジネス文書では注意が必要です。どちらの意味でも誤解されうる言葉は、別の表現に言い換えるという選択肢も有効です。言葉の歴史を知った上で、場面に応じた適切な使い方を心がけましょう。

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