天体望遠鏡の種類と比較|屈折式・反射式・カタディオプトリック
天体望遠鏡を選ぶにあたって、最初に理解しておきたいのが光学方式の違いです。天体望遠鏡はレンズやミラーを使って光を集め、天体の像を拡大して見せる仕組みですが、その光学系の構造によって屈折式、反射式、カタディオプトリック式の3つに大別されます。それぞれに得意分野と弱点があり、観測の目的や使用環境に合った方式を選ぶことが満足度を大きく左右します。
この記事では、各方式の仕組みと特徴を比較し、目的別の選び方を紹介します。
天体望遠鏡の基本スペック
方式の比較に入る前に、天体望遠鏡の性能を表す基本的なスペックを理解しておきましょう。
口径(有効径)
口径は対物レンズまたは主鏡の直径で、望遠鏡の最も重要なスペックです。口径が大きいほど集光力が高く、暗い天体が見えるようになります。また、分解能(細かい構造を見分ける能力)も口径に比例して向上します。集光力は口径の2乗に比例するため、口径が2倍になると集光力は4倍になります。
焦点距離とF値
焦点距離は対物レンズや主鏡から焦点までの距離で、F値は焦点距離を口径で割った値です。F値が小さい(明るい)望遠鏡は広い視野を得やすく、星雲や銀河の観測や天体写真撮影に有利です。F値が大きい(暗い)望遠鏡は高倍率での惑星観測に向いています。
倍率
倍率は対物レンズの焦点距離を接眼レンズの焦点距離で割った値です。接眼レンズを交換することで倍率を変えられます。実用的な最高倍率は口径(ミリメートル)の約2倍が目安とされ、それ以上に上げても像がぼやけるだけで意味がありません。口径80ミリメートルの望遠鏡なら、約160倍が実用的な上限です。
屈折式望遠鏡
屈折式望遠鏡は、レンズで光を集めるタイプです。最も歴史が古く、1608年にオランダのリッペルスハイが発明し、1609年にガリレオ・ガリレイが天体観測に用いたのが始まりとされています。
仕組みと構造
筒の前方にある対物レンズが光を集めて焦点に像を結び、接眼レンズで拡大して観察します。構造がシンプルで、筒の中は密閉されているため光軸がずれにくく、メンテナンスの手間が少ないのが特徴です。
屈折式のメリット
コントラストの高いシャープな像が得られることが屈折式の最大のメリットです。鏡筒内に光を遮る障害物(中央遮蔽)がないため、回折の影響が少なく、月面のクレーターや惑星の模様を鮮明に観察できます。
筒内気流の影響も少ないです。反射式では鏡筒内の温度差によって気流が発生し像が揺らぐことがありますが、屈折式は密閉構造のためこの問題が起きにくいです。
また、使い方が直感的でわかりやすく、初心者にも扱いやすいという利点があります。
屈折式のデメリット
色収差が最大の弱点です。レンズは光の波長ごとに屈折率が異なるため、色ごとに焦点位置がずれ、明るい天体の周囲に色のにじみが出ます。この問題を軽減するためにアクロマートレンズ(2枚構成)やアポクロマートレンズ(3枚以上の構成や異常分散ガラスの使用)が開発されていますが、アポクロマートは高価です。
大口径化が難しいことも弱点です。レンズは外周のみで支持するため、大きくなると自重で変形します。口径15センチメートルを超える屈折望遠鏡は非常に高価で大型になり、アマチュア向けとしては現実的ではありません。
反射式望遠鏡
反射式望遠鏡は、凹面鏡で光を集めるタイプです。アイザック・ニュートンが1668年に考案したニュートン式が代表的です。
ニュートン式の仕組み
筒の底にある放物面鏡(主鏡)で光を集め、筒の上部にある小さな平面鏡(副鏡・斜鏡)で光路を90度曲げて筒の側面にある接眼部に像を導きます。反射を利用するため色収差が原理的に発生しません。
反射式のメリット
同じ口径であれば屈折式よりもはるかに安価です。ミラーはレンズと違って片面だけ精密に研磨すればよく、ガラスの内部の均質性も問われません。このため、大口径の望遠鏡が比較的手頃な価格で入手できます。口径20センチメートルや25センチメートルクラスの反射望遠鏡は、アマチュアが手の届く範囲にあります。
色収差がないため、すべての波長の光が同じ焦点に集まります。星雲や銀河のような淡い天体を観測する際に、色にじみのないクリアな像が得られます。
反射式のデメリット
副鏡とそのスパイダー(支持構造)が光路を遮るため、中央遮蔽が生じます。これにより回折パターンが変化し、コントラストが屈折式に比べてやや低下します。惑星の微細な模様を観察する際に差が出ることがあります。
光軸調整(コリメーション)が必要なことも反射式の手間です。運搬時の振動で光軸がずれることがあり、定期的にまたは使用のたびに調整が必要です。慣れれば数分でできる作業ですが、初心者にはハードルに感じるかもしれません。
筒が開放構造のため、鏡面にほこりが付きやすく、外気温と鏡の温度差で筒内気流が発生しやすいという弱点もあります。観測前に30分から1時間ほど外気に馴染ませる「温度順応」が理想的です。
カタディオプトリック式望遠鏡
カタディオプトリック式は、レンズとミラーの両方を組み合わせた光学系で、屈折式と反射式の長所を取り入れた設計です。
シュミットカセグレン式(SCT)
最も普及しているカタディオプトリック式がシュミットカセグレン式です。筒の前面にシュミット補正板(薄いレンズ)を置き、主鏡で集めた光を凸面の副鏡で反射して主鏡の中央の穴を通して接眼部に導きます。この折り返し構造により、焦点距離に対して鏡筒が非常に短くコンパクトになります。
口径20センチメートルで焦点距離2000ミリメートルの鏡筒が、長さ40センチメートル程度に収まるのは大きな利点です。
マクストフカセグレン式
マクストフカセグレン式はシュミット補正板の代わりに厚いメニスカスレンズを使います。球面収差の補正精度が高く、シャープな像が得られますが、メニスカスレンズが厚いため重くなり、温度順応にも時間がかかります。小口径(9センチメートルから15センチメートル程度)のモデルが多く、惑星観測に向いたコンパクトな望遠鏡として人気があります。
カタディオプトリック式のメリットとデメリット
メリットはコンパクトさと汎用性です。持ち運びが容易で、自動導入架台との組み合わせが多く、月面、惑星、星雲、銀河まで幅広い対象に使えます。密閉構造のためメンテナンスも比較的少なくて済みます。
デメリットは中央遮蔽の大きさです。副鏡が比較的大きいため、中央遮蔽率が30パーセントから40パーセント程度あり、コントラストの面では同口径の屈折式に劣ります。また、シュミット補正板に夜露がつきやすく、レンズヒーターが必要になることがあります。価格は同口径の反射式よりも高価です。
架台の種類と選び方
望遠鏡の光学系と同じくらい重要なのが架台(マウント)です。優れた光学系も不安定な架台では性能を発揮できません。
経緯台
上下方向と水平方向に動かす最もシンプルな架台です。直感的に操作でき、セットアップが簡単です。天体を追尾するには2軸を同時に動かす必要がありますが、自動追尾機能付きの経緯台であれば自動で行えます。眼視観測が主な目的であれば十分です。
赤道儀
地球の自転軸に平行な極軸を持ち、極軸を回転させるだけで天体の日周運動を追尾できる架台です。天体写真撮影には赤道儀がほぼ必須です。極軸を北極星に向けて合わせる「極軸合わせ」が必要で、やや手間がかかりますが、正確に追尾できるため長時間露光の撮影に対応できます。
ドブソニアン架台
大口径のニュートン式反射望遠鏡を簡素な経緯台に載せたものがドブソニアン式です。架台をシンプルにすることで大口径を低コストで実現しており、眼視観測で暗い天体を観るには最もコストパフォーマンスが高い選択肢です。口径25センチメートルから30センチメートルクラスが比較的手頃な価格で入手できます。
観測目的別の選び方
どの方式が最適かは、何を観たいかによって異なります。
月や惑星の観測が主な場合
月面のクレーターや惑星の模様を高いコントラストで楽しみたい場合は、屈折式のアポクロマート(口径8センチメートルから10センチメートル)やマクストフカセグレン式が適しています。中央遮蔽がないか小さいため、シャープでコントラストの高い像が得られます。
星雲や銀河など暗い天体を眼視で楽しむ場合
集光力が重要になるため、大口径が有利です。ドブソニアン式の反射望遠鏡(口径20センチメートルから30センチメートル)が最もコストパフォーマンスに優れます。口径が大きいほど暗い天体が見え、星雲の構造や銀河の腕を確認できるようになります。
天体写真撮影が主な目的の場合
シュミットカセグレン式や屈折式アポクロマートを赤道儀に載せた組み合わせが一般的です。撮影にはF値が小さい(明るい)光学系が有利で、写野の隅まで星像が鋭いことが求められます。専用の天体写真向けアポクロマート屈折望遠鏡が多数販売されています。
初心者が失敗しないためのポイント
初めて望遠鏡を購入する際に注意すべき点をまとめます。
倍率の数字に惑わされない
販売時に「最高倍率○○倍」と大きな数字を強調している製品には注意が必要です。実用的な最高倍率は口径の約2倍であり、小口径で高倍率を謳う製品は像がぼやけて使い物になりません。口径と架台の安定性を重視して選びましょう。
架台に予算を配分する
望遠鏡の予算の配分で見落としがちなのが架台です。優れた光学系も、振動の多い不安定な架台に載せると像が揺れて性能を発揮できません。予算の3分の1から半分程度を架台に充てるつもりで検討するとバランスの良い組み合わせになります。
実際に覗いてから購入する
可能であれば天文台の観望会や天文ショップの展示品で実際に覗いてみることをおすすめします。カタログスペックだけではわからない見え味やサイズ感、重量を体感できます。天文同好会のイベントに参加して、さまざまな望遠鏡を見比べるのも良い方法です。
まとめ
天体望遠鏡の3つの光学方式にはそれぞれ明確な特徴があります。屈折式はシャープでメンテナンスが容易、反射式は大口径が手頃、カタディオプトリック式はコンパクトで汎用性が高いです。
どの方式が最良かは観測目的によって異なります。惑星を鮮明に見たいなら屈折式やマクストフ式、暗い天体を大口径で楽しむなら反射式、持ち運びと汎用性を重視するならシュミットカセグレン式がおすすめです。架台の安定性も忘れずに考慮し、自分の観測スタイルに合った一台を選んでください。