「いたす」と「いただく」の違い|混同しやすい謙譲語
「いたす」と「いただく」はどちらも謙譲語ですが、意味も使い方も異なります。しかし、似た響きのため混同されやすく、ビジネスシーンでも誤用が目立つ表現です。正しく使い分けないと、文意が変わってしまったり、不自然な敬語になったりします。この記事では、「いたす」と「いただく」の違いを明確にし、正しい使い方を解説します。
「いたす」と「いただく」の基本的な違い
「いたす」=「する」の謙譲語
「いたす」は「する」の謙譲語です。自分の動作をへりくだって述べるときに使います。
- 「確認いたします」(自分が確認する)
- 「ご連絡いたします」(自分が連絡する)
- 「対応いたします」(自分が対応する)
「いただく」=「もらう」の謙譲語
「いただく」は「もらう」の謙譲語です。相手から何かをもらう、または相手に何かをしてもらうときに使います。
- 「資料をいただきました」(相手から資料をもらった)
- 「ご確認いただけますか」(相手に確認してもらいたい)
- 「ご出席いただきありがとうございます」(相手に出席してもらった)
主語の違いが決め手
使い分けのポイントは「誰が動作をするか」です。
- 自分がする動作 →「いたす」
- 相手にしてもらう動作 →「いただく」
よくある間違いパターン
間違い1:自分の動作に「いただく」を使う
自分が主体となる動作に「いただく」を使うのは誤りです。
- 誤:「私がご説明いただきます」
- 正:「私がご説明いたします」
- 誤:「弊社で対応いただきます」
- 正:「弊社で対応いたします」
間違い2:相手の動作に「いたす」を使う
相手にしてほしいことに「いたす」を使うのも誤りです。
- 誤:「ご確認いたしていただけますか」(混合型)
- 正:「ご確認いただけますか」
- 誤:「お客様にご記入いたしてください」
- 正:「お客様にご記入いただけますでしょうか」
間違い3:「させていただく」の乱用
「させていただく」は「いたす」と「いただく」を組み合わせた表現です。相手の許可を得て自分が動作をする場合に使いますが、乱用されがちです。
- 不自然:「本日は晴れさせていただいております」(天気に許可は不要)
- 自然:「本日は休暇をいただいております」
「いたす」の正しい使い方
本動詞として使う場合
「いたす」を「する」の代わりに使う場合です。
- 「何をいたしましょうか」
- 「失礼いたしました」
- 「努力いたします」
- 「検討いたします」
補助動詞として使う場合
「お/ご+動詞+いたす」の形で、自分の動作をへりくだって述べます。
- 「お伝えいたします」
- 「ご連絡いたします」
- 「お送りいたします」
- 「ご案内いたします」
「いたす」と「します」の使い分け
「いたします」は「します」よりも丁寧です。
- 社内の日常会話:「確認します」
- 社内の上司向け:「確認いたします」
- 社外向け:「確認いたします」
「いただく」の正しい使い方
本動詞として使う場合
「いただく」を「もらう」の代わりに使う場合です。
- 「結構なお品をいただきました」
- 「お時間をいただきたいのですが」
- 「ご厚意に甘えて、いただきます」
補助動詞として使う場合
「〜ていただく」の形で、相手にしてもらうことの謙譲表現です。
- 「ご確認いただけますか」
- 「ご出席いただきありがとうございます」
- 「ご検討いただけますと幸いです」
- 「お力添えいただき感謝いたします」
漢字とひらがなの使い分け
補助動詞の場合はひらがなで書くのが望ましいとされています。
- 本動詞:「お菓子を頂きました」(漢字OK)
- 補助動詞:「ご確認いただけますか」(ひらがなが望ましい)
実践問題で理解を深める
問題1
「書類を( )ので、ご確認ください」
- 正解:「お送りいたしました」(自分が送る動作 → いたす)
- 誤り:「お送りいただきました」(相手からもらった意味になる)
問題2
「わざわざお越し( )、ありがとうございます」
- 正解:「いただき」(相手に来てもらった → いただく)
- 誤り:「いたし」(自分が行く意味になる)
問題3
「それでは、会議を始め( )」
- 正解:「させていただきます」(相手の許可を得て自分が始める)
- 別解:「いたします」(シンプルに自分が始める)
問題4
「資料を拝見( )」
- 正解:「いたしました」(自分が見た → いたす)
- 誤り:「いただきました」
ビジネスメールでの使い分け
依頼メールでの使い分け
- 自分の動作:「ご連絡いたします」「ご報告いたします」「お送りいたします」
- 相手への依頼:「ご確認いただけますか」「ご返信いただけますと幸いです」
お礼メールでの使い分け
- 「ご対応いただきありがとうございます」(相手がしてくれた → いただく)
- 「今後も精一杯努めてまいります」(自分がする → いたす不要、別の謙譲表現で)
報告メールでの使い分け
- 「確認いたしましたところ」(自分が確認した → いたす)
- 「ご指摘いただいた点について」(相手が指摘してくれた → いただく)
「いたす」と「いただく」が両方登場する場面
一文に両方使う場合
同じ文の中で「いたす」と「いただく」が両方登場することがあります。
-
「ご確認いただいた内容をもとに、修正いたします」
- 「いただいた」:相手に確認してもらった
- 「いたします」:自分が修正する
-
「お教えいただいた方法で対応いたしました」
- 「いただいた」:相手に教えてもらった
- 「いたしました」:自分が対応した
くどくならない工夫
「いただく」「いたす」が連続すると読みづらくなります。
- くどい:「ご確認いただいた件について、ご報告いたしたく、ご連絡いたしました」
- 改善:「ご確認いただいた件について、ご報告申し上げます」
類似表現との違い
「いたす」と「申す」
どちらも謙譲語ですが、「申す」は「言う」の謙譲語です。
- 「いたす」:する → いたす
- 「申す」:言う → 申す
「いただく」と「くださる」
どちらも相手の行為に対する敬語ですが、視点が異なります。
- 「いただく」:もらう側の視点(謙譲語)
- 「くださる」:くれる側の視点(尊敬語)
まとめ
「いたす」は「する」の謙譲語で自分の動作に使い、「いただく」は「もらう」の謙譲語で相手からもらう動作に使います。使い分けの決め手は「誰が動作をするか」です。自分が主体なら「いたす」、相手に何かしてもらうなら「いただく」と覚えておけば、混同を防ぐことができます。