誕生日会|6人で始まったパーティーの参加者が7人に
人生で最も楽しい夜が、最も恐ろしい夜に変わることがある。
これは、大学時代の友人である宮本の誕生日に起きた話だ。あの夜以来、私たちのグループの間では「あの誕生日会」の話はタブーになっている。
集まり
宮本の25歳の誕生日を祝うために、大学時代のグループ6人が集まった。宮本、私、加藤、小川、林、中島。卒業してから3年、全員が揃うのは久しぶりだった。
会場は中島の家。広いリビングのある一軒家で、大人数で集まるのに都合がよかった。
午後6時、全員が揃った。ビールで乾杯し、宅配ピザを頼み、思い出話に花を咲かせた。大学の頃の馬鹿な話、ゼミの先生の話、あの授業が面白かっただの、あの試験は地獄だっただの。笑いが絶えない夜だった。
午後9時、ケーキにロウソクを立てた。宮本が吹き消し、歓声が上がった。
「じゃあ、記念に写真撮ろう」と加藤が言った。
加藤がスマートフォンをテーブルに立てかけ、セルフタイマーをセットした。6人がソファの前に並んだ。タイマーが鳴り、シャッターが切れた。
「撮れた?」
加藤がスマートフォンを確認した。
そして動きが止まった。
「…え」
加藤の声に、全員の視線が集まった。
「ちょっとこれ見て」
加藤がスマートフォンの画面を見せた。
写真には7人が写っていた。
7人目
画面を食い入るように見た。
左から小川、林、宮本、私、中島、加藤。これは正しい並び順だ。6人。しかし写真の右端、加藤のさらに右側に、もう一人いた。
男性だった。私たちと同じくらいの年齢に見える。髪型も服装もごく普通。暗い色のパーカーにジーンズ。しかし、誰も知らない顔だった。
表情がおかしかった。他の6人が笑顔でカメラを見ている中、7人目だけが真顔だった。目はカメラではなく、少し右を見ている。何かを見つめているような、虚ろな目だった。
「誰だこれ」と林が言った。
「反射か何かじゃないか」と中島が言った。
「反射でこんなはっきり人の形にはならないだろ」
全員が写真を拡大して確認した。7人目はくっきりと写っている。背景も自然で、合成のような不自然さはない。まるで最初からそこに立っていたかのように。
「もう一回撮ろう」と私が言った。
同じ位置に並び直した。今度はセルフタイマーではなく、中島の妻に頼んで撮ってもらった。
写真を確認した。6人だけだった。7人目はいない。
「さっきのは何だったんだ」
「カメラの不具合かな」
そう結論づけようとした。しかし、加藤が最初の写真をもう一度見て言った。
「この男、なんか見覚えがないか」
全員がもう一度見た。
確かに、どこかで見たことがあるような気がする。しかし、誰も名前が出てこない。
思い出
パーティーは続いたが、空気が微妙に変わっていた。7人目のことが全員の頭に引っかかっている。
酒が進むにつれて、大学時代の思い出が深掘りされていった。
「あの頃、俺たちのグループって何人だった?」と宮本が何気なく聞いた。
「6人だろ。今ここにいるメンバーだ」と私が答えた。
「…本当に?」と小川が言った。
「何だよ」
「いや、なんとなく。もう一人いなかったっけ」
全員が黙った。
「もう一人って誰だよ」と林が聞いた。
「わからない。でも、なんかこう…6人だけじゃなかった気がする。7人でよく集まっていた気がする」
「気のせいだろ」
「じゃあ聞くけど、大学2年のときの旅行、車何台で行った?」
全員で箱根に旅行に行ったことがあった。
「2台だろ。3人ずつ分かれて」
「6人なら車2台で3人ずつ。でも、俺の記憶だと1台に4人乗ってなかったか?」
「4人と3人なら7人だ」
沈黙。
加藤が大学時代の写真をスマートフォンの中から探し始めた。クラウドに昔の写真が残っているという。
旅行の集合写真を見つけた。
7人写っていた。
私たち6人と、あの男。さっきの写真に写り込んでいたのと同じ顔。しかし大学時代の写真では、7人目も笑っていた。他のメンバーと同じように。
「いたんだ。7人目が」
「でも名前が…思い出せない」
他の写真も確認した。飲み会の写真。ゼミの後の写真。いくつかの写真に、7人目が写っていた。しかしすべての写真にいるわけではない。いたりいなかったりしている。
記憶の穴
全員が必死に思い出そうとした。7人目は誰なのか。名前は。どこに住んでいたのか。何を専攻していたのか。
断片的な記憶がよみがえってくる。
「あいつ、確か俺の隣の席だった。ゼミで」と宮本が言った。
「飲み会でいつも隅にいたやつだ。あまり喋らなかったけど、笑い声がでかかった」と林が言った。
「名前…なんだっけ。の、のぐち? のむら?」
「思い出せない」
全員が同じ状態だった。7人目の存在は記憶の中にある。しかし、名前だけが出てこない。顔はわかる。声はかすかに覚えている。一緒にいた記憶もある。しかし名前が、決定的な名前だけが思い出せない。
中島の発見
中島が二階に上がった。しばらくして降りてきたとき、手にアルバムを持っていた。大学の卒業アルバムだ。
「ゼミの集合写真を見れば名前がわかるはずだ」
ゼミのページを開いた。集合写真と、メンバーの名前が記載されている。
集合写真を見た。私たち6人と教授、そして他のゼミ生たち。
7人目はいなかった。
写真にも名簿にも、7人目の痕跡はない。
「おかしいな。ゼミにいたはずなのに」
「本当にいたのか? 俺たちの思い込みじゃないのか?」
「でも写真に写っている。加藤のスマホの写真に」
加藤が大学時代の写真をもう一度確認した。
「…消えてる」
「え?」
「さっきまであった写真。7人で写っている旅行の写真。今見たら6人しか写っていない」
全員が加藤のスマートフォンに群がった。確かに、旅行の集合写真は6人だけだった。7人目がいた痕跡はない。
しかし、今夜の誕生日会の写真には、まだ7人が写っていた。
帰り道
深夜になり、パーティーはお開きになった。
帰りのタクシーの中で、私は今夜のことを考え続けていた。
7人目は誰なのか。本当に存在していたのか。写真に写ったり消えたりする人物。記憶にはあるのに名前が出てこない人物。
翌朝、目が覚めてスマートフォンを確認した。加藤がグループLINEに、今夜の集合写真を送ってくれていた。
写真を開いた。
6人だけだった。7人目はいなかった。
グループLINEのメッセージを遡った。
「写真送るね」と加藤が書いている。
その下に宮本が返信している。「いい写真。やっぱり5人揃うといいな」
5人。
宮本は5人と言っている。6人ではなく。
グループLINEのメンバーを確認した。宮本、加藤、小川、林、中島。5人。
私がいない。
いや、私は自分のスマートフォンで見ているのだから、自分を含めれば6人のはずだ。しかし、グループLINEのメンバーは5人しか表示されていない。
私のアカウントがグループに入っていない。
おかしい。昨夜、このグループLINEを見ながら集合場所を確認したはずだ。
宮本に電話をかけた。繋がらない。加藤に電話をかけた。
「もしもし、加藤? 昨日はありがとう」
「…すみません、どちら様ですか」
「何言ってるんだよ。俺だよ」
「申し訳ないんですが、お名前を」
名前を名乗った。
長い沈黙。
「すみません、存じ上げないです。番号をお間違えではないですか」
電話が切れた。
私は自分のスマートフォンの中の写真を確認した。大学時代の写真。旅行の写真。飲み会の写真。
どの写真にも、私は写っていなかった。5人の友人が笑っている写真の端に、知らない男が写っている。暗い色のパーカーにジーンズ。真顔で、少し右を見ている。
それは7人目の男ではなかった。
それは、私だった。
私が7人目だったのだ。
昨夜の写真から消えたのは、見知らぬ7人目ではなく、私自身だった。そして今、友人たちの記憶からも消えつつある。名前を思い出せない、顔はわかるが誰だか特定できない、いたような気がするが確証がない。そういう存在に、私がなりつつある。
あるいは、最初からそうだったのかもしれない。私はずっと「7人目」だったのかもしれない。存在しているようで存在していない、記憶の中にだけかろうじて残る、透明な人間。
この文章を書いている今も、自分が本当にここにいるのか自信がない。
もしあなたがこの文章を読めているなら、私はまだ存在しているのだろう。
しかし、もし読み終わった瞬間にこの文章のことを忘れてしまうなら。
私もまた、誰かの記憶から消える7人目なのだ。