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病院の四階|存在しないはずのフロアの怖い話

ショートホラー 病院 四階 怖い話
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日本の病院には4階がないことが多い。「四」は「死」を連想させるからだ。階数表示は3階から5階に飛び、4という数字は存在しないものとして扱われる。

しかし、建物の構造として4階が物理的に存在しないわけではない。ただ、その階には病室を作らない。あるいは倉庫や機械室として使い、患者の目に触れないようにしているだけだ。

これは、私の叔母が体験した話だ。

入院三日目

叔母は膝の手術のために、地方の総合病院に入院していた。病室は5階。手術は成功し、リハビリを続けながら退院を待つ日々だった。

その病院は地上7階建てで、1階が受付と外来、2階が検査室、3階と5階から7階が病棟、そして4階は「設備階」とされていた。エレベーターの階数ボタンには4がなく、階段の踊り場にも「4F」の表示はない。3階と5階の間に、4階は存在しないことになっていた。

入院三日目の深夜、叔母は目が覚めた。時刻は午前2時過ぎ。喉が渇いていた。枕元の水差しは空だった。

ナースコールを押すほどのことでもない。自動販売機が1階のロビーにあることを思い出し、松葉杖をついてベッドから降りた。

廊下は消灯されていて、足元の誘導灯だけが頼りだった。ナースステーションの方に目をやると、当直の看護師がパソコンに向かっている背中が見えた。声をかけるのも気が引けて、そのままエレベーターホールに向かった。

ボタンを押すと、すぐにエレベーターが来た。乗り込んで1階のボタンを押した。

エレベーターが下降を始めた。5から数字が変わるのを待った。

表示が「4」になった。

そしてエレベーターが止まった。

叔母は首をかしげた。4階のボタンはないのに、なぜ止まるのか。故障だろうか。

ドアが開いた。

四階の光景

目の前に広がっていたのは、病棟だった。他の階と同じ構造の廊下。同じ色の壁。同じリノリウムの床。天井の蛍光灯が白い光を放ち、消灯されている様子はない。

ただし、決定的に違う点があった。

廊下に人がいた。大勢の患者が、車椅子に座ったり、壁にもたれたりして、廊下を埋め尽くしていた。全員が同じ方向を向いている。エレベーターの方、つまり叔母の方を向いていた。

誰も動かない。誰も喋らない。ただ、全員がこちらを見ていた。

叔母は反射的に「閉」ボタンを連打した。ドアが閉まり始めたとき、廊下の一番手前にいた老人が口を開いた。

「あんたは、まだこっちじゃないよ」

ドアが閉まった。エレベーターは1階に向かって再び下降を始めた。

叔母は壁に背をつけたまま、膝が震えて立っていられなかった。

1階に着き、ドアが開いた。深夜のロビーは薄暗く、受付には誰もいない。自動販売機の明かりだけが煌々と光っていた。

飲み物を買う気は失せていた。叔母は急いでエレベーターに乗り直し、5階のボタンを押した。今度はまっすぐ5階に着いた。4階で止まることはなかった。

病室に戻り、布団をかぶった。眠れるはずがなかった。

翌朝の確認

翌朝、叔母は担当の看護師に思い切って尋ねた。

「この病院の4階には何があるんですか」

看護師は一瞬表情を硬くしたが、すぐに笑顔を作って答えた。

「4階は設備階です。空調や電気の機械が入っています。患者さんは立ち入り禁止ですよ」

「昨夜、エレベーターが4階で止まったんです」

看護師の表情が曇った。

「…それは、たぶんエレベーターの故障ですね。メンテナンスに連絡しておきます」

看護師は足早に去っていった。

叔母はそれ以上追及しなかった。しかし気になることがあった。同室の患者、佐藤さんという70代の女性に話しかけてみた。

「佐藤さん、この病院の4階のこと、何かご存じですか」

佐藤さんは編み物の手を止めて、声を潜めた。

「あんた、4階に行ったの」

叔母がうなずくと、佐藤さんは窓の外に目をやりながら言った。

「この病院、建て替える前は4階も普通の病棟だったのよ。でも、あの火事があってね」

「火事?」

「もう30年以上前の話。4階の病棟で深夜にボヤが出て、入院患者が何人か逃げ遅れたの。それ以来、4階は使わなくなった。建て替えたときも、4階は病室にしなかった」

佐藤さんは叔母の顔を見て、静かに言った。

「4階で誰かに何か言われなかった?」

叔母は、あの老人の言葉を伝えた。「あんたは、まだこっちじゃないよ」と。

佐藤さんは小さくうなずいた。

「よかったわね。それは、まだ大丈夫だってことだから」

「まだ大丈夫、というのは?」

佐藤さんは答えなかった。ただ、編み物を再開しながら、独り言のようにつぶやいた。

「前に同じ話をしてくれた人がいたのよ。でもその人は、4階の人たちに『おいで』って手招きされたって言ってた」

叔母は続きを聞きたかったが、佐藤さんはそれ以上口を開かなかった。

退院の日

叔母は予定どおり10日後に退院した。退院の朝、エレベーターで1階に降りる際、やはり4階の表示はなく、3階から5階に切り替わった。あの夜のことが嘘のようだった。

受付で退院手続きを済ませていると、壁に掲示されている病院の沿革が目に入った。建て替えの経緯が簡潔に書かれている。しかし、火事のことは一切触れられていなかった。

病院を出る際、玄関から建物を見上げた。1階、2階、3階、5階と窓が並んでいる。3階と5階の間にも窓はある。しかしその窓はすべてブラインドが下ろされていて、中の様子は見えない。

4階は確かにそこにある。ただ、ないことにされているだけだ。

叔母がこの話を聞かせてくれたのは、数年前の正月のことだった。叔母は元気そうに笑いながら話していた。

「でもね」と叔母は最後に言った。「ひとつだけ、今でもわからないことがあるの」

「何?」

「あの夜、4階でドアが開いたとき、廊下にいた人たちは全員こっちを向いていたでしょう。あの人たちの顔、はっきり見えたの。老人もいたし、若い人もいた。男の人も女の人もいた」

「うん」

「でもね、全員、同じ顔だったの」

叔母は笑いながら言った。しかし、その目は笑っていなかった。

「全員、私の顔だったのよ」

私はその言葉の意味を考えて、しばらく動けなかった。あの老人が言った「まだこっちじゃない」という言葉。廊下に並んでいた、叔母と同じ顔をした大勢の人々。

あれは、叔母自身の未来の姿だったのだろうか。いつか叔母があの病院に戻り、今度は4階の住人になる日が来るということなのか。

叔母は今も元気に暮らしている。あの病院には二度と行っていないという。

しかし先日、叔母から電話があった。膝の調子が悪くなり、病院に行く必要があるという。

「あの病院は絶対に避けるわ」と叔母は言った。

「でもね、紹介状の宛先を見たら、あの病院の系列病院だったの。同じグループの、隣の市にある病院」

叔母は少し間を置いて、こう付け加えた。

「その病院も、4階がないんですって」

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