放課後の教室|誰もいないはずの席の怖い話
高校二年の秋のことだった。部活を終えて帰ろうとしたとき、教室に筆箱を忘れたことに気づいた。
夕暮れの校舎
午後六時を過ぎていた。秋の日は短く、校舎の廊下はすでに薄暗い。職員室で鍵を借りて、三階の教室に向かった。
階段を上る足音が廊下に響く。三階は文化部の部室がいくつかあるだけで、この時間にはほとんど人がいない。廊下の蛍光灯は一本おきに点いており、明るい場所と暗い場所が交互に続いている。
教室の前に着いた。ドアの小窓から中を覗いた。西日が斜めに差し込み、机と椅子が整然と並んでいる。誰もいない。
鍵を開けてドアを引いた。
忘れ物
筆箱は自分の机の中にあった。取り出してカバンに入れ、教室を出ようとした。
そのとき、視界の端で何かが動いた気がした。
教室の一番後ろ、窓際の席。あの席は、今は誰も座っていない空席だ。四月からずっと空いている。
今年の春に卒業した先輩が、去年まで座っていた席。先輩は三月の卒業式の前日に交通事故で亡くなり、卒業式には遺影が置かれた。
今年のクラス替えで私がこの教室になったとき、その席には誰も配置されなかった。先生たちの配慮だったのだと思う。
一番後ろの窓際の席。西日が差している。椅子は机の下にきちんと収められている。
何も動いていない。見間違いだ。
私は教室を出て、ドアを閉めた。
廊下で
鍵を閉めようとしたとき、ドアの小窓から教室の中がちらりと見えた。
一番後ろの窓際の席。椅子が引かれていた。
さっきは机の下に収まっていたはずの椅子が、誰かが座っているかのように引き出されている。
私は鍵を閉める手を止めた。目を凝らして教室の中を見た。椅子は確かに引かれている。しかし、誰も座っていない。
気のせいだ。もともと引かれていたのかもしれない。先ほどの記憶が間違っているだけだ。
私は鍵を閉め、職員室に返しに行った。
職員室で
鍵を返すとき、担任の先生がまだ残っていた。
「遅くまで残ってたな。気をつけて帰れよ」
先生はそう言いながら、何かを思い出したように付け加えた。
「そういえば、あの教室の一番後ろの席、来月から使うことになった。転校生が来るんだ」
私は何も答えられなかった。
「どうした。顔色が悪いぞ」
「先生、あの席の椅子って、普段どうなっていますか」
先生は少し考えて答えた。
「ああ、あの席か。用務員さんが毎朝きちんと椅子を入れてくれているよ。でも不思議なんだ。夕方に見ると、たまに椅子が引かれているんだよな。誰もあの席には座らないのに」
先生はそれ以上は何も言わなかった。私もそれ以上は聞かなかった。
翌朝、教室に入ると一番後ろの窓際の席を見た。椅子はきちんと机の下に収められていた。机の上には、朝日が静かに差し込んでいた。
放課後になるのが、少しだけ怖くなった。