引っ越しの日|前の住人の忘れ物の意味がわかると怖い話
新しいマンションに引っ越した。築十年の1LDK。家賃も立地も申し分ない。なぜこんなにいい物件が空いていたのか不思議だったが、不動産屋は「前の住人が急に転勤になった」と言っていた。
クローゼットのメモ
荷解きをしていて、寝室のクローゼットを開けた。中は空っぽだが、奥の壁に小さなメモが貼ってあった。テープで貼り付けてある。前の住人の忘れ物だろう。
メモにはこう書かれていた。
「夜、玄関のチャイムが鳴っても出ないでください」
変なメモだ。前の住人の冗談か、あるいは宗教の勧誘がしつこかったのかもしれない。剥がしてゴミ箱に捨てた。
二枚目のメモ
翌日、キッチンの収納を整理していたら、引き出しの裏にもメモが貼ってあった。
「インターホンのモニターは絶対に見ないでください」
少し気味が悪くなった。しかし、前の住人が神経質な人だっただけだろう。このメモも捨てた。
三枚目のメモ
浴室の換気扇のカバーを外して掃除していたら、カバーの裏にまたメモがあった。
「夜中にドアをノックする音がしても開けないで。朝まで待って」
三枚目。さすがに不気味だ。しかし内容は一貫している。「夜にドアを開けるな」ということだ。
不動産屋に電話して聞いた。前の住人の連絡先を教えてもらえないかと。不動産屋は規約上教えられないと言ったが、前の住人について一つだけ教えてくれた。
「あの方、退去するとき、とても急いでいらっしゃいましたね。荷物もかなり置いていかれて。管理会社で処分したんですよ」
四枚目のメモ
その夜、ベッドのマットレスを動かしたとき、ベッドフレームの裏に最後のメモを見つけた。
他のメモより大きく、文字も乱れていた。
「あなたがこれを読んでいるということは、まだ間に合うかもしれません。
このマンションの私の部屋には、夜になると誰かが来ます。チャイムが鳴ります。出ないでください。モニターも見ないでください。あれは人間ではありません。
モニターを見ると、あちらにもこちらが見えます。目が合います。目が合うと、次の夜からドアをノックするようになります。
ノックに応じると、ドアを開けることになります。
私はモニターを見てしまいました。ノックが始まりました。まだドアは開けていません。でも毎晩ノックが強くなっています。
引っ越します。あなたは同じ間違いをしないでください。
追伸:もしすでにモニターを見てしまったなら、すぐに引っ越してください。ドアを開ける前に」
メモを読み終えて、気がついた。
引っ越し初日の夜。荷解きの途中でチャイムが鳴った。隣の住人が挨拶に来たのかと思って、インターホンのモニターを確認した。
画面には誰も映っていなかった。いたずらだと思って、そのまま忘れていた。
今夜、インターホンのモニターを確認した時点で、もう手遅れだったのだろうか。
今のところ、ノックの音はしない。まだ。