階段の数|いつもより一段多い怖い話
会社員として働いていた二十代後半の頃。築三十年のマンションの四階に住んでいた。エレベーターのない建物で、毎日階段を使っていた。
日常
一階から四階まで、各フロアの間の段数は十四段。合計で四十二段。毎日上り下りしていれば自然に体が覚える。足元を見なくても、あと何段あるか感覚でわかるようになっていた。
その日は残業が長引いて、帰宅は午前零時を回っていた。マンションの共用灯は十一時で消えるため、階段は非常灯のわずかな光しかない。
一階の郵便受けで手紙を取り、階段を上り始めた。
一段、二段、三段。暗い中でも足は自然に動く。十四段上がって踊り場。向きを変えてまた十四段。二階の廊下を過ぎて、また階段へ。
異変
三階から四階への最後の階段。残り十四段。
一段、二段、三段。体が覚えている感覚で足を運ぶ。十一、十二、十三、十四。
四階のはずだ。しかし、足がもう一段、段差を踏んだ。
十五段。
あるはずのない一段があった。踏み出した足が段を踏んだ感覚ははっきりとあった。
暗くて足元がよく見えない。段数を数え間違えたのだろう。疲れている。私はそのまま自分の部屋に向かい、鍵を開けて中に入った。
翌朝、出勤の際に階段を確認した。三階から四階の段数は十四段。当たり前だ。昨夜は数え間違えただけだ。
繰り返し
その週の金曜日、また終電帰りだった。暗い階段を上る。三階から四階。
十三、十四��―十五。
また、一段多い。今度はしっかり数えていた。確かに十五段あった。
足が止まった。スマートフォンのライトで足元を照らした。
四階の廊下に立っている。段差はない。普通の廊下だ。しかし、今確かに十五段目を踏んだ感覚があった。足の裏に、段差を踏み越えた感触が残っている。
管理人
月曜日、マンションの管理人に尋ねてみた。
「三階と四階の間の階段って十四段ですよね」
管理人は怪訝な顔をした。
「もちろん十四段ですよ。どの階も同じです」
「深夜に上ると、十五段あるように感じることがあるんですが」
管理人の表情が変わった。穏やかだった顔が、少し強張った。
「あなたもですか」
「あなた『も』」
「以前、四階に住んでいた方も同じことを言っていました。深夜に階段を上ると、一段多い。その方は引っ越されましたが」
管理人は声を落とした。
「建て替える前、この場所にあった木造アパートで、階段から落ちて亡くなった方がいるんです。四階から三階に降りるとき、段数を踏み外して。その方の部屋は、あなたの部屋と同じ位置にあったそうです」
私はそれ以上何も聞かなかった。
翌月、私はそのマンショ��を引っ払った。新しいマンションにはエレベーターがある。階段は使わない。
ただ、たまに自宅の廊下を歩いているとき、平らなはずの床に存在しない段差を感じることがある。足が一段分だけ、高く上がる。
その感覚があるのは、決まって深夜のことだ。