深夜の自販機|誰もいない公園の怖い話
終電を逃したのは初めてではなかったが、その夜は財布にタクシー代がなかった。最寄り駅から自宅まで歩いて40分。大した距離ではない。
公園の自販機
午前1時過ぎ。住宅街を抜ける近道として、小さな公園を横切ることにした。街灯は一本だけ。ブランコと滑り台のシルエットが闇に浮かんでいる。
公園の入り口に自動販売機が一台あった。煌々と光を放つその箱は、暗い公園の中で妙に存在感があった。
喉が渇いていた。缶コーヒーでも買おうと財布を開いた。小銭を投入口に入れ、ボタンを押した。ガコンという音がして、取り出し口に缶が落ちた。
缶を取り出そうとしゃがんだとき、自販機の液晶画面が目に入った。
最近の自販機には小さな液晶ディスプレイがついている。広告が流れたり、おすすめの商品が表示されたりするやつだ。
その液晶に、人の顔が映っていた。
映り込み
最初は自分の顔が反射して映っているのだと思った。しかし、その顔は自分のものではなかった。
男の顔だった。年齢は分からない。髪が乱れ、目が虚ろで、口が半開きになっている。液晶の中で、その顔はこちらを見ていた。
私は立ち上がった。液晶画面から顔が消えた。
画面には通常の広告映像が流れている。「冷たい飲み物はいかがですか」という文字が点滅している。
見間違いだろう。液晶の映像の一部が人の顔に見えただけだ。私は缶コーヒーを手に取り、プルタブを開けた。
一口飲んで、何気なくもう一度液晶画面を見た。
また、あの顔が映っていた。今度は先ほどより大きく、画面いっぱいに。そして顔が、笑っていた。
背後
私は缶コーヒーを落とした。コーヒーがアスファルトに広がった。
液晶画面の顔が消えた。通常の広告に戻った。
嫌な汗が背中を流れた。自販機の光で周囲を見渡した。公園には誰もいない。ブランコが微かに揺れていたが、風のせいだろう。
早くここを離れよう。私は足早に公園を横切り始めた。
公園の出口に差しかかったとき、背後から音が聞こえた。
ガコン。
自販機から缶が出る音だった。誰もいないのに。
振り返りたくなかった。しかし振り返ってしまった。
自販機が光っている。取り出し口に缶が一本、落ちている。
そしてその手前に、人が立っていた。自販機の光を背にして、シルエットだけが見える。こちらに向いているのか、背を向けているのかもわからない。
私は走った。公園を出て、住宅街の道を全力で走った。
翌日
翌日の昼間、通勤途中にその公園の前を通った。自販機は昼の光の中で何の変哲もない姿で立っている。液晶画面には天気予報が映されていた。
公園の掲示板に目が留まった。古い紙が一枚、画鋲で留められている。
「お心当たりの方はご連絡ください」
行方不明者の情報提供を求めるチラシだった。日付は二年前。写真の男性は40代くらいで、髪が少し乱れた優しそうな顔をしていた。
その顔を、私は知っていた。
昨夜、自販機の液晶画面に映っていた顔と、同じ顔だった。
私はそれ以来、あの公園を通らなくなった。遠回りでも、大通り沿いの道を選んで帰っている。